半年ほど前、オンラインで行った1on1の文字起こしを見返して、少し落ち込みました。
30分の枠のうち、20分近く話していたのは私のほうでした。
部下が「最近、問い合わせ対応で迷うことがあって」と切り出した直後に、私は自分の経験談と解決策を話し始めていたのです。
はじめまして、SaaS企業のカスタマーサクセス部門でマネージャーをしている村瀬拓真です。
7人のメンバーと隔週で1on1をしながら、個人ブログでビジネス書の書評を書いています。
1on1の進め方を調べると、たいてい「上司は聞き役に回る」と書いてあります。
頭では分かっているのに、気づくと自分が話している。
この記事では、調査データと公的機関の資料をもとに「聞き続ける」とはどういうことかを整理し、私が1on1で続けているやり方を紹介します。
後半では、1on1の外の短いやり取りで信頼を積む方法にも触れます。
面談の時間をこれ以上増やせない、という方にも使える内容にしました。
Contents
1on1で「聞けているつもり」になっていませんか
上司と部下で「誰が話しているか」の感じ方が逆になる
文字起こしを見るまで、私は自分を「どちらかといえば聞けているほう」だと思っていました。
この思い込みは、私だけのものではなさそうです。
パーソル総合研究所の1on1に関する定量調査は、2024年6月に、直近半年で1on1を経験した正社員3,000名(上司1,500名、部下1,500名)へ、面談で誰が多く話しているかを聞いています。
結果を並べると、上司と部下の感じ方がきれいに逆になっていました。
| 回答者 | 「部下の話す割合が高い」 | 「上司の話す割合が高い」 |
|---|---|---|
| 上司 | 42.5% | 36.2% |
| 部下 | 31.4% | 36.6% |
上司は「部下がよく話している」と感じ、部下は「上司がよく話している」と感じています。
同じ30分を過ごしていても、受け取り方はこれだけ違うわけです。
同じ調査では、部下が多く話す1on1ほど、部下の成長度(10点満点の自己評価)が高いという結果も出ています。
部下の話す割合が高い場合は6.8点、上司の話す割合が高い場合は6.3点でした。
報告書のサマリには「部下にとって1on1は上司の『講演会』であってはならない」という見出しがあり、読んだときは耳が痛かったです。
1on1の場をつくるだけでは本音は出てこない
もうひとつ気になったのが、サーモスが2025年6月に行った調査です。
1on1を実施している上司300名と部下300名に「1on1で本音で話せると思うか」を聞いたところ、「あまり思わない」「全く思わない」と答えた部下は50.3%でした。
上司は34.7%です。
サーモスの調査リリースは、1on1だからといって特別に本音を話せるようになるわけではなく、日頃からの信頼関係づくりが必要だとまとめています。
面談の枠を用意すれば話してもらえる、というものではないのですね。
私も1on1を始めて最初の半年は、「特にありません」で終わる面談を何度も経験しました。
上司の側も楽ではありません。
1on1支援サービスを提供するmentoが2025年9月に公表した調査では、上司の65.4%が1on1や面談に心理的な負担を感じると答えています。
部下の本音を引き出しにくい理由の1位は「1on1で話せる時間が短い」でした。
「聞き続ける」とはどういうことか
遮らない、先回りして助言しない
厚生労働省が運営する働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」に、部下の話を聴けていますか -傾聴のすすめ-という上司向けのページがあります。
冒頭には、上司がやってしまいがちな対応が並んでいます。
- 部下の話を遮って、アドバイスや説得などをしてしまう
- 部下が話し始めても、電話や来客対応で話をよく中断してしまう
- 自分の席で話を聞き始めて、内容が周囲に聞こえてしまう
こうした対応は部下を落胆させるだけでなく、「次に相談しようという気持ちをそいでしまう」ことにもなりかねない、と書かれています。
ひとつめは、まさに冒頭の私でした。
同じページには「部下にとって、上司は最大の職場環境です」という一文もあります。
マネージャーになってから、この言葉を何度も思い出しています。
このシリーズで紹介されている傾聴のポイントは、次の5つです。
- 相談できる時間と場所を整える
- 表情や姿勢、声のトーンなど、言葉以外のメッセージを意識する
- うなずきやあいづちを返す
- 口を挟まず最後まで聴いたうえで、理解したことを伝えて確認する
- 意見やアドバイスを求められていれば、誠意をもって応える
助言そのものを禁じているわけではありません。
最後まで聴いて、相手が話したかったことを確かめてから、という順番の話です。
聞く側の態度は3つに分けると分かりやすい
こころの耳の「傾聴とは」というページでは、米国の心理学者カール・ロジャーズが提唱した「積極的傾聴」の考え方が紹介されています。
ロジャーズは、聴く側に必要な態度として次の3つを挙げました。
- 相手の立場に立ち、気持ちに共感しながら理解しようとする(共感的理解)
- 善悪や好き嫌いの評価を入れずに聴く(無条件の肯定的関心)
- 分かりにくいときは分かりにくいと伝え、真意を確かめる(自己一致)
私が1on1でいちばん崩しやすいのは、2つめです。
部下の話を聞きながら、頭の中で「それは対応が遅いな」と評価を始めてしまう。
評価が始まると、次の質問が詰問のような口調になります。
3つめの「分からないまま流さない」は、次に紹介する確認のやり方とつながっています。
一回の面談で聞き切ろうとしない
「聞き続ける」の「続ける」には、もうひとつ意味があると私は考えています。
一回で終わらせない、ということです。
エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは、東洋経済オンラインに掲載された記事で、部下が自分で正しい選択にたどり着くまで「辛抱強く何度も聞き続けることが大切です」と書いています。
多くの上司が半期や四半期に1回の面談で「一発勝負」で決めようとしてしまう、という指摘もありました。
林さんはそのうえで、かしこまった面談とは別の「普段の仕事中のちょっとした会話」をどう使うかがポイントになると続けています。
この考え方は、後半で紹介する1on1の外での工夫につながっていきます。
1on1で私が続けている「聞き続ける」コツ
ここからは、文字起こしを見て反省してから半年ほど続けているやり方です。
どれも特別な技術ではありません。
最初の数分は話が温まるまで待つ
1on1の冒頭でいきなり「何か困っていることある?」と聞くと、たいてい「特にないです」と返ってきます。
話す準備ができていないうちに核心を聞いても、言葉は出てきません。
今は最初の数分を、相手が話しやすい話題に使っています。
先週いちばん時間を使った仕事や、最近やり取りしたお客さんの話などです。
話しているうちに、本人のほうから「そういえば」と本題が出てくることが増えました。
画面とメモから目を離す
オンラインの1on1では、相手の話を聞きながらチャットの通知に目が行ってしまうことがあります。
カメラ越しでも、視線が動いているのは意外と伝わるものです。
今は1on1の前にチャットツールの通知を切り、メールの画面も閉じています。
メモは話の途中で細かく取らず、最後の数分で部下と一緒に「今日決めたこと」を書き出す形に変えました。
メモを取る手が止まっているほうが、相手の顔を見ていられます。
話が一段落したら、受け取った内容を返す
部下の話が一区切りついたら、「つまり、〇〇の件で△△に迷っているということで合ってる?」と返すようにしています。
こころの耳でも、話が一段落したところで「あなたの話を……と理解したけど、合っているかな?」と確認するやり方が紹介されています。
ずれていれば、部下が訂正してくれます。
その訂正の中に、本当に言いたかったことが入っていることが多いです。
沈黙は5秒待つ
質問したあとの沈黙が、以前は苦手でした。
3秒もすると「たとえば〇〇とか?」と、自分で答えの候補を出してしまっていたのです。
今は、心の中でゆっくり5つ数えるまで口を開かないと決めています。
5秒は思ったより長く、最初は落ち着きませんでした。
それでも待っていると、部下が「うーん、たぶん……」と自分の言葉で話し始めます。
助言は「聞いてから、求められたら」
聞くことに慣れてきても、つい助言したくなる場面はあります。
そんなときは「私の考えを言ってもいい?」とひと言断ってから話すようにしました。
私がよく使う言い換えを表にまとめます。
| ついやってしまう反応 | 言い換えの例 |
|---|---|
| 「それはこうすればいいよ」 | 「どうしたいと思ってる?」 |
| 「わかる、私のときはね」 | 「そのとき、どう感じた?」 |
| 「で、結論は?」 | 「もう少し聞かせて」 |
| 沈黙に耐えきれず答えを出す | 5秒待ってから「急がなくていいよ」 |
| いきなり自分の意見を言う | 「私の考えを言ってもいい?」 |
毎回うまくできているわけではありません。
それでも、表の左側をやってしまった瞬間に気づける回数は増えました。
信頼は1on1の外の短い時間で積み上がる
「ちょっと時間ある?」を言い換える
隔週で1on1をしていても、面談の時間は月に1時間ほどです。
それ以外の時間のやり取りのほうが、ずっと長いのです。
以前の私は、部下の席に行って「ちょっと時間ある?」と声をかけることがよくありました。
部下からすると、何の話か分からないまま手を止めることになります。
今は「〇〇社の件で5分だけ確認したい」のように、用件とかかる時間を先に伝えています。
部下から話しかけられたのに、手が離せない場面もあります。
以前は画面を見たまま生返事をしていました。
今は「あとでちゃんと聞きたいから、15時に声をかけるね」と伝えるか、「要点だけ先に教えて」と頼むようにしています。
聞いてもらえなかったという感覚を残さないこと。
それが、次にまた話しかけてもらえるかどうかを左右すると感じています。
林健太郎さんの新刊の第4章
先ほど紹介した林健太郎さんが、2026年10月に明日香出版社から新刊を出しています。
仕事がうまくいっている人が「1分」でやっている40の行動を、6章に分けて紹介する一冊です。
信頼づくりを扱うのは、第4章「ムリはせずに信頼を『築く1分』」です。
目次には次のような項目が並んでいます。
- 信頼貯金をためる「聞き続け」
- 「最近の仕事のこだわりポイントは?」と声をかける
- 相手をその気にさせる「承認」+「未来を問う」の力
- 「ちょっと時間ある?」をやめる
- 時間がないときは「あとでちゃんと」+「要点1分」
項目名を見たとき、私が手探りで続けてきたことに名前がついている気がしました。
1on1の進め方の本ではありませんが、面談の外の短いやり取りで信頼を積むという点で、この記事のテーマと重なる章です。
ほかの章には「10秒考えて50秒で聞く」という項目もあります。
目次の全体や著者のプロフィールは、明日香出版社の『仕事が速い人が「この1分」でやっていること』書籍ページで確認できます。
まとめ
1on1で部下の話を聞き続けるために、私が意識していることを振り返ります。
- 上司と部下では「誰が話しているか」の感じ方が逆になりやすい
- 遮らずに最後まで聞き、受け取った内容を確かめる
- 沈黙は5秒待ち、助言は求められてから
- 一回の面談で聞き切ろうとせず、何度も聞く
- 1on1の外の短いやり取りで、聞いてもらえたという感覚を積み重ねる
1on1の時間を倍にするのは難しくても、次の面談で自分が話す時間を少し減らすことはできます。
まずは次回、質問のあとに5秒だけ待ってみてください。
部下が自分の言葉で話し始める瞬間が、きっと来るはずです。
最終更新日 2026年10月26日 by aikapa



